マイクの短編のお話し ショートショートです

若かりし頃に 暇にまかせ書いたものを ロフトに仕舞ってある古ぼけた原稿から転記したいと思います

他愛のない こんな時もあったと言う事の証しに・・・

読み返してみると マイクの青春も ショートショートであったように 今更ながら 寂しく思い起こします

生まれ育ちは故郷金沢 その金沢の犀川大橋から 左に大門山 右に高三郎山が並んで聳える・・・・

それをペンネームにして粋がっていた 天文少年上がりの 山男でした

社会人3年目 仕事と遊びの両方をバランスさせながら こんなことにも励んでいました

    雑感色々のページに戻る   HPのトップページに戻る  2011.9.9

 

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「月のある・・・夏の夜の・・・・」 マイクこと 大門高三郎

 

  『やだネ。何ンデいま更ょぅ。』

 彼は黙って俯いている小柄なユミの、 白い額を中指で コ突き、 薄情な調子をつくって 続けた。

 

  『ままゴト遊びと お医者サンゴッコ だっただけサ。 遊びは 遊びらしく しようぜ。』

 ユミは堪えた。 ユミのことだ、涙は見せまいと努めたつもりだが、瞳は濡れた。

 

 それから10ヶ月、また同じ夏の夜、ただし浜辺には あの日のような甘い月の光はなかった。その夜の浜辺に、ユミは、松に露を避けて、何も身に付けぬまま、日の昇るのを待っていた。けれど 思い出が ひとりでに頬を湿すばかりで、夜明けのあることを 忘れていた。

 

 ユミが 突然 朝を感じたのは、 彼女の側の 赤子の 声の所為 で あった。それは生まれてまもない 女の子で、 しかも ユミに とても似ていた。けれども ユミには、そのことが 少しも 不思議に感じられなかった。 ユミは軽く抱き上げて 頬に 口をあてた。

 

 10年が過ぎた。いまは その子は 生きうつしに、 素直に明るく 育っていた。それに控えユミは、 青ざめて悲しげな容貌を作ってしまっていた。それでもそれ以外には、何も変わりない 母と子の 生活にしか見られなかった。

 

 その夏の或る夜に、わけもなく ユミには、海が恋しく感じられた。その子も同じであった。その夜の月は、十五夜に満ちていた。海に映る月の明るい照り返しに 二人は 青白く 透明に 見えた。

 

 そしていま、いつどこから現れてきたのか 一人の黒い影の加わったことには、二人は 気が付かなかった。母と子に見えた二人 は、いつの間にかその黒い影を 交えて 父と母と その子供の楽しげな 姿に 変わっていた。

 

 月は満々と膿を照らし 砂浜に 真珠の淡い光を 注いでいた。 しかも しかも 三つのかげは睦まじく 仕合せを 象徴していた。ふとユミには、 かつての出来事が 思い起こされたけれど、 そんな事を考えほじくる余裕がないほどに いまが楽しかった。 ユミは、いつの間にか、渚に打ち寄せる波に戯れ、そして 仕合せに浸るうちに、蒼白な顔の映りが 明るく健康に 甦っていった。 まるであの夜の出来事があった以前にましてのように。

 

 月は同じように頭上にあった。 しかしこの幸福に酔っている ユミには、 いまこの浜辺の月の光が 淡くなりかけている事を 感じはしなかった。 波に浮かぶ 泡も 綺麗な貝の殻も ユミ には まだ美しく輝いてみえたからだ。

 

 長い時間の間に 月は次第に赤銅色に包まれて、洸々と 光っていた部分は身を細めていた。 浜辺は、月蝕の 暗がりに変わっていった。 三つの影も それにつれてやがて 消えてしまった。

 

 ユミは、今、何が起こっているのか、考える必要のないほどの 幸福に 身を孕ませていた。やがてどれだけかののち、再び現れた 月の光は、 セレナァド を 奏で、 砂浜を照らした。 貝殻はもとの 七色 に 輝き、メロディをなし、白い波が そのリズム に 合わせて 生まれては 消えた。

 

 しかし、砂の上には、 もとの三つの影はみあたらず、映るのは 二つの影 だけであった。 海は静かに更け入って、 月はよりまして 美しく、温かく 夜の 海辺に 光を投げつづけていた。

 

‘65.8.5  大門高三郎(ことマイク 24歳)

 

 

 大阪の研究所勤務一年目 女遊びを覚えて間もないころの事です

 天文少年抜けきらない まだまだ幼稚な成り立て社会人の端くれのマイクでした

 黒い影がマイクであったかどうかは・・・

 

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